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「静けさの底にも音が有るのね」
開いた本に挟むでもなく、細い指先で栞を弄びながら彼女は告げる。
密やかに、彼女自身の言う音を妨げない様にと、吐く息にさえ気を付けて。
私も声を出さぬまま、音に耳を澄ませた。
外は雪。
降り積もり、一面の銀世界の中で動く物とてなく。
ただ静かに、層を成して行く。
「時を重ねる音でしょうか」
口を突いて出た言葉に、物憂げな彼女の目が見開かれる。
そして一瞬後、花のほころぶ様な笑みを見せた。
「詩の様ね」
「これは似合いませんね」
苦笑し、淹れたばかりのお茶を差し出す頃には、もう彼女は何時もの物憂げな表情を取り戻していた。
視線は開いた本に戻り、きっと今入れ替えたお茶も冷めきってしまうだろう。
読書中の音を彼女は嫌う。
黙って襖を閉じた。
「……そうね、確かに刻を重ねる音だわ」
退室した私の背に、小さな音が降り掛かった。
舞い降りる雪の如く。
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