0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
当日
「豊島園って遊園地の?」
サクラはオレの話しを聞いて、眉をしかめた。
「だから説明するって言っただろう!」
昨夜、オレはサクラの住むマンションを訪ねた。
もちろん年明けには結婚式も予定している。
二人はそんな仲だ。深夜にサクラの家に行っても変ではなかった。
「意味がわからないよ。子供の頃に心臓手術をしたんだよね?」
サクラもオレの話しを理解しようとしていた。
「だからその子が好きだったんだって」
「幼なじみとデートするって事を言いたいの?」
あまりに話しが平行のままで、オレはサクラに話したことを少し後悔すらしていた。
「確かに相手は女の子だよ。でもその子に会うとかじゃないんだ。ココ」
オレは自分の胸を叩いた。
「ココにその子がいるんだ。遊園地が好きだった女の子がさ!」
サクラが「エッ!」と目を丸くして何かを察した。
「今から二十年前、オレはその子から大切なモノを預かったんだ。だから今日だけはその子ために一日を使いたいんだ!」
何も言わずにサクラは頷いた。
それと同時に大きな瞳に涙を溢れさせた。
「行ってあげなよ。メリーゴーランドにも乗ってあげなよ。きっとその子、喜ぶと思うよ」
「嗚呼、オレもそう思ってる」
夜通し話通したサクラは眠い目を擦り、二人、いや三人分の朝食を作り始めた。
「名前とか知らないの?」
「教えてくれなかったな」
「でもなんでその子が遊園地好きだと分かったの?」
「手術した時、夢で会ったんだ。顔も覚えているよ」
サクラはオムライスを三皿テーブルに並べた。
「もしかしたら、私たちの所にその子が来るかもね!」
「来るって?」
「毎年、今日だけはその子のために時間を使って来たんでしょ? 私だった嬉しいよ。自分の身体が優しい人と一緒に生きていけたら!」
「そうだとしてら、オレも嬉しいよ」
三人で食べたオムライスは特別、美味しかった。
オレたちは一緒に家を出た。
サクラは会社に向かう。そしてオレたちは、遊園地であの子が生きていた証を紡ぐのだ。
最初のコメントを投稿しよう!