「あけおめー、おにいちゃん」

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まだこの家で過ごしていたこどもの頃、僕は年の暮れの張り詰めた空気に清らかさを感じていた気がする。その清らかさはどこかもどかしいもので、少年はいずれ過ぎ去る今年にぎこちなく頭をさげていたのかもしれない。今となってはそんな感慨はどこにもなく、間の抜けた正月を迎えるだけである。 先日、学生時代の旧友にあった時、それもこんなものかと思った。三年越しの思いを乗せた帰郷の途であったとしても、会ってしまえば思いの外感慨が浮かばないものである。正月もこんなものかと思ったのであった。 私はふと目の前にいる彼女を見た。「晦日は妹と浮かれて大騒ぎをしていたっけ」と思い返すも目の前にいる彼女はそんな気配もない。私が上京してる間についた癖か、私が気づかぬ間に上京した癖かは分からないが、栞をいじっている。旧友と交わした他人行儀のようなものを感じていると、女は昔の口調で話しかけてきた。 ふと、我に帰って清らかさを見た。
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