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「新雪の 真白に落つる 寒椿
隠れゆく赤 ただ音もなく」
本を読んでいた女が不意に何かを呟いた。
同じく傍で本を読んでいた男が小首を傾げる。
「急にどうしたの?」
「ん、ちょっとね、詠んでみたくなっただけ」
にこりと笑う彼女の膝には短歌の歌集。
何のことはない、好奇心旺盛な彼女のいつものお遊びなのだろう。
そう納得した男は「すぐ影響される」と呆れてみせながらも穏やかに微笑み、女の頬を柔らかく撫でた。女は擽ったそうに照れた笑いを浮かべる。
冬の、暖かな部屋。
ふわりと舞い散る雪だけが、窓の外で踊っていた。
それは、白く全てを覆いつくしてゆく。
ぽとりと落ちた椿も。
白銀に走った赤色も。
苦しげに歪んだ顔も。
裂けた肉も。
女に巣食ったどす黒い感情すら全部、全部。
無垢な白に、染め上げていった。
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