テレビ出演

4/4
前へ
/20ページ
次へ
大漫才の当日がやってまいりました。 通常、本職の芸人は本選から始まるのですが、私たちは師匠たちの指示で、一時予選からのスタートです。 「ヤダッお姉ちゃん、かんざしの珊瑚一個ないよ!」 「わざと。完璧じゃない方が縁起がいいんですって」 お姉ちゃんでも縁起かつぐほど、この勝負に懸けているんだ…。 心臓が大きく打ち始めました。 野外会場へ向かうと、観客が大波のように押し寄せているのが見えました。 ついてきてくれた五木さんが、 「あれ、全部君らのファンかもしれない」 「まさかぁ」 笑って返しましたが、スタッフが近づいてきて、 「ちょっと観客の人数が多すぎるので、出番を早めさせてもらいたい」 と言ってきました。 「早めるってどのくらいですか?」 「できたら、次いって欲しい」 「次…!?」 五木さんが言いました。 「じゃ、さっさと行って」 姉が無邪気に言いました。 「わーい、次だ」 「わーいじゃないよ…」 結局、なんの準備もないまま、着いて三分で舞台へ。 咆哮のような歓声が上がりました。 アイドルになったみたい…でした。 「広い!」 姉が気持ち良さそうに声を上げました。 本当に広かった。 いつも寄席ですからね。それと共に、姉の感動が伝わってきました。 一度は死を選んで、それでも立ち直って、今ここにいる。 広い。 その言葉がどこまでも響き渡って、稲穂のように世界が揺れました。 「おねーちゃんおねーちゃんおねーちゃん」 「なんだい、イモウトよ」 笑ってる。 笑わせてる。 笑われている。 私たちは『笑い』そのもの。 お姉ちゃんが思ってる。 ちゅんちゅん… いちっ! 【完】
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加