Nくん

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Nくんという名前が、頻繁に姉の口から聞かれるようになったのは、ちょうどこの頃。 彼は、姉が短いながらも通った地元中学校の同級生でした。 日本人形のような顔立ちで、細いのに骨ばった体つき、学生に見えない大人びた人でした。 私が中学時代に先輩から目をつけられて、売春をやっているというタチの悪い噂を流された時、 「何かあったら俺に言えよ」 と先輩たちの前で声をかけてもらい、助けてくれたことがありました。 「アタシの金額いくらだったと思う!?三千円だよ!?」 「のんちゃん、木戸銭と相場が同じだ…!」 「ヤンキーなのに頭いいんだね。鴨東大付属なんて」 「友だち出来ないみたいだけどね」 「ヤンキーの行くガッコじゃないもん」 「でも礼儀正しいし、お祖父ちゃんが『ふみ子と結婚して跡取りゃいい』って」 「知らぬがホトケだね」 姉も含み笑いで、うなずきました。 なぜなら、彼も実は跡取り。 大きな組事務所の… Nくんも姉も戦争映画が好きという、高校生にあるまじき共通点がありました。 「付き合ってんの?」 私は何度も聞きましたが、いつも姉は笑って首を横にふりました。 「Nくん、女の子取っ替え引っ替えしてるし」 「モテモテじゃん」 「こっちなんて一人も出来ないのにね」 「寄席行って、戦争映画みて、読んでる本は仏教書、カレシなんかできるはずないよ」 「いやいや、最近はヌード写真集も見てる。オススメはこのポーズ」 「それ仏像じゃん!」 姉は関西での生活に未練があったのか、大阪の大学へ進学いたしました。 姉が行ってしまうと、私はあの特急電車の夢を見て、何度もうなされたものです。
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