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私の音楽活動は、パッとしませんでした。
すでに同棲していた道野辺明人の才能に、打ちのめされた…ということもあります。
所属していた音楽事務所が倒産してしまったことも追い打ちをかけました。
毎日、脱け殻のように過ごしていた私に、すかさず姉が声をかけてきました。
「一緒に漫才コンビ組もう」
「冗談でしょー。私、面白いとか言われたことないし…」
「漫才は台本どおりしゃべればいいだけだから」
「その台本はどうするの?」
「私が書く。もう書いてる」
「大学首席で出て、ナニやってんだアンタ」
「お友だちのいないアナタでも出来る簡単なオシゴト」
「余計なお世話だっ!!」
とにかく、寄席に行こうよと言われて付いて行きました。
姉が「出待ちしたい」と言うので一緒に待っていると、見たことのあるオジサン二人がマネージャーらしき人と共に出てきました。
突然、腰の辺りをぐいっと引っ張られ、私は地面に尻餅をつきました。
「い、痛ぁ…!」
言ったか言わないかの内に、後頭部に重みがかかって、目線は地面。
な、なんなの!?
横で土下座した姉が、こう叫び出しました。
「師匠!ワタシたちを弟子にしてくださいっ!!」
ワタシ…たち!?
なん、なんで!?
なんで、ワタシ『たち』!?
困惑したような師匠たちの声が聞こえました。
「ボクらムリだよ。もう弟子を取るような歳じゃねぇもん」
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