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慌ただしく毎日を送っている私たちに、ある日漫才協会から呼び出しがかかりました。
師匠たちと話を聞きに行ったら、
「ちゅんちゅんを大漫才に出してくれ」
と依頼されました。
師匠たちは、もちろん猛反発。
「まだ新人どころかトーシローだよ!?ナニ言ってヤんだ」
「客が増えりゃイイってもんじゃねぇや」
『大漫才』は、素人も参加できる新人限定の漫才コンテストです。
席ゆずる師匠が審査員に加わってから、日本中の漫才師が参加する一大ショーレースになっていました。
協会長が言いました。
「お姉ちゃんは、イジメから立ち直ったヒロインだ。今打って出れば、子供たちに勇気が与えられる」
「なぁぁにがヒロインだよぉ。うちはいつから文部省の手先になったんだ」
「芸のないもん出してヘタに残ってみろ。うちが笑われちまうよ!」
さんざん抵抗しましたが、結局は協会に押し切られる形で参加することになりました。
姉は本心では出たかったんじゃないかしら。
いざ稽古が始まると、とてつもない数のネタを出してきましたから。
師匠たちも「こうなったからには、基礎の基礎。教科書通りの漫才やるしかない」と、熱のこもった指導をするようになりました。
バレー部のしごきに耐えた私でもその稽古は厳しくて、しかも私ばかり怒られるのです。
この頃から、姉と私の才能に大きな開きがあることを感じ始めていました。
お姉ちゃんは、私じゃない人間と組んだ方がいいんじゃないか…
そう悩むほど稽古に集中できず、また怒られる…
負の連鎖に陥っていきました。
もう逃げよう…
そんな時、師匠たちの話の立ち話を耳にしたのです。
「ボクら、コンビ組んで二人で一つになるのに十年以上かかった。それがあの子らは、生まれながらにコンビだから」
「会ったときには、もう『ちゅんちゅん』だったもの」
これは嬉しかった。
この言葉を頼りに、倒れるまで稽古に励みました。
私の家で稽古することもありました。
道野辺は耳のいい人ですので、タイミングが0.1秒でも違えばすぐ気がつくのです。
私たちには全く分からない、そのズレを上から目線で指摘されて、
「別れてやるっ!」
というくらい腹立たしいのですが、
姉は全面的に受け入れて何度もやり直していましたね。
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