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小さい頃から、大人しい姉でした。
あまりにも泣かない赤ん坊なので、母がふいと寝床を確認すると、目を開けている。
起きているのに、泣かないでミルクを待っているような子だったのです。
対して私は首も座っていないのに、起き上がろうともがき、
一日中ベッドから
「うううううっ!ううううっ!」
とうめき声が聴こえるので、悪魔の子「オーメン」と呼ばれていました。
父は彫金の職人でしたが、私たちが幼い頃に体を壊し、働けなくなってしまったため、母はすぐに新聞の配達と集金を始めました。
当時、私は三歳。
夜目を覚ますと、母はいません。
とうぜん泣き始めます。
父親は体調が悪いせいもありましたが、なにせ元々が職人気質な人間ですから、
一声「うっせぇ!寝ろっ!」と言ってオワリ。
すると姉が起きてきて、私の体をポンポンと叩き、寝かしつけようとします。
そんなことで、誤魔化される私ではありません。
「おねーたん、おねーたん、おねーたん」
「なんだ…ぃ…」
「オシッコついてきて」
姉は目をこすり足をもつれさせながら、トイレまでついてきます。
私はドアを開けっぱなしにしながら、出ないくせに便器に腰かけます。
見ると、姉は立ちながら舟をこいで
ぐら~りぐら~り…
「おねーたん、ネナイデ!」
「うん…」
「ネナイデ!!」
「…出たぁ?」
「まだデナイ!」
これを繰り返し、いよいよ姉が廊下で寝始めたところで、形ばかりお尻を拭き、姉を起こします。
「オウマサンやって」
姉が寝ぼけながら四つんばいになって、その上に私が乗って。
「アッチいって!」
「コッチいって!」
「おしょいっ!」
ようやく眠たくなってくるけれど、でも布団には入りたくないの。
それで、ちゅんちゅんをやったり、おんぶしてもらったりしているうちに、いつの間にか寝ている。
これが、小学校に入るまで続きました。
姉は眠たそうでしたが、私を叱ることは一度もありませんでした。
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