年忌

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姉は小さい頃から、本さえあれば何もいらないというような子供でした。 私にも色々な話をしてくれたり、自分で作った話を披露したりしていましてね。 多かったのが「ふとしたことからスカウトされて、芸能人になる」というお話でした。 「のんちゃん、大きくなったら二人でアイドルになろうよ」 と、姉は言いました。 「うん」 「二人でさーあ、キレイなドレス着て、踊ってぇ、歌ってぇ…」 この時のことを思い出すと、ごめんなさい。 涙が出ちゃうの。 茶色い豆電球の明かりや、古い木目調の台所、傾いだテーブル、父親のイビキ。 みんな思い出しちゃうの。 私は小さくて、母親が居ないこと以外にそれほど不満はなかったけれど、姉はあの頃からもう色んなものを我慢していたんだなぁと思ってね。 姉の夢に、その気持ちが痛いほど詰まっていたことが、今ではよく分かるのです。 私が小学校二年になったころ、ようやく父は職人として復帰することができました。 といっても、ブランクがありますから、その後も母の新聞配達は続きました。 父の工房が移転していたので、私たち一家は隣街へ引っ越しをしました。 ここで、姉がいじめに遭い始めたのです。
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