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「お姉ちゃん、赤ペン貸して」なんてペンケースを見たら、それこそ象に踏みつぶされたような形状になって、もう開けられないし閉められないのです。
もちろん、中身もボキボキに折られたエンピツのみ。
「先生に言いなよ!」
「もう言ったよ」
「先生なんて?」
「おまえは暗いって」
姉は、おとなしい性格でしたから、暗く見えたのかもしれません。
でも決してそうではありませんでした。
父親はようやく復帰した仕事の勘を取り戻すのに夢中。
母親は生活の不安から、以前よりも仕事の量を増やしていました。
姉も言えなかったし、言っても無駄なことを知っていたのかもしれません。
姉が六年生になった時のこと、学校に呼び出された母親が顔を真っ赤にして、ジャージ姿の姉を怒鳴りつけながら帰ってきました。
「ふざけたくらいでナンだい!情けない!」
一緒に帰ってきた姉びいきの父親が、取りなすように言いました。
「お父さんもよく海老川に落とされたもんだよ」
姉は泣き張らした顔で、子供部屋へ入って行きました。
「本当に暗いヤツだ!先生の言ったとおりじゃないか!」
「どうしたの?」
父がのんびりと答えました。
「裏の川に、落とされたんだと」
「ええ!あのドブ川!?」
母親が乱暴に夕飯の支度を始めました。
「怪我もしてないのに大騒ぎして!アイツには恥かかされたよ!」
両親はあろうことか、加害者の親に『謝罪』して帰ってきたのでした。
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