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怒り狂った私とは対照的に、当事者である姉はより一層もの静かになり、やがて中学校に入ると、猛烈に勉強し始めました。
集中力のある人でしたから、入学した一番最初の中間テストで学年一位。
両親の喜びようと言ったらありません。
「これはフナコウだ、船校!」
県立船橋高校は、船橋出身の両親が考えうる最高のステイタスでした。
おそらく、これが姉にとって最後の親孝行のつもりだったのでしょう。
ある日、私が友達と駅前を歩いていると、姉が改札口に入ってゆくのが見えました。
「お姉ちゃん!どこに行くの?」
姉はいつも通りの表情で言いました。
「映画観に行く」
「え、ぜったい怒られるよ!止めなよ!」
それでも姉は、ホームへ降りて行きました。
「ぜったい怒られる…あーあ、しらないよワタシ」
「すごく見たい映画なんだね」
「今、なにかやってたっけ?」
駅に背を向けて線路沿いの道を歩き始めたら、特急電車とスレ違いました。
この時の光景が、私を終生苦しめることになります。
「あの電車に乗るのかな…」
ぼんやりと、そう思った次の瞬間です。
耳をつんざくようなレールの悲鳴が聞こえました。
思わず友達と耳をふさぎました。
「やだああ!!」
「うっさい!」
姉が投身自殺を図ったと知ったのは、この二時間後のことでした。
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