1人が本棚に入れています
本棚に追加
姉は、轢かれませんでした。
電車にぶつかり、弾き飛ばされ、救急病院へ搬送されました。
友だちのお母さんに連れられて、横たわる姉を見た瞬間、
足元にポッカリと大きな穴が開いて、なすすべもなく落っこちて行くように思えました。
母は半狂乱になって「元橋家の遺伝」のせいにし、
父の方は「お前が仕事で家を空けてるからこういうことになるんじゃねーか!」
と母を怒鳴りつけるばかり。
頭ではなく臀部から落ちたことが幸いしました。
姉はやがて意識を取り戻し、二ヶ月の入院を経て、出家した叔母のいる滋賀県のお寺へ引き取られることになりました。
鉄道会社への賠償は、元橋の祖父が軍事恩給を担保に借金して支払い、自殺ではなく事故として処理されました。
二年後に、姉が滋賀で高校受験しようとすると、
「それ見たことか!寿々枝さん(叔母)はうちの娘を自分の子にしようとしてる!」
滋賀へやることも反対だった母は、家を壊す勢いで暴れだし、父に連れて帰るように要求しました。
父も家庭のクッション材だった姉のいない生活は辛かったのでしょう。
姉は中学三年の二学期に、千葉へ戻ってまいりました。
最初のコメントを投稿しよう!