約束

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「なんなんだ貴様は! 何故私に構おうとする。貴様に私といて得るものなどないし、私自身も貴様に構われて得るものなど何もない。何が目的だ?」 どうやらナターシャはシオンだけが自分を避けるどころか普通に接する事に対して、何か目的があると踏んだらしい。しかし、シオンは別に彼女から何か欲しているわけではない。 「目的か。君と友達になりたいかな」 「と、友達だと……!?」 そんな目的の為にわざわざこうして自分に構うのかと、ナターシャは拍子抜けしてしまう。嘘を言っているとも到底思えない。昨日死にかけた男がその原因を作った張本人に友達になりたいなどと嘘をつこうと考えようか。 「君が嫌なら諦めるけど……」 「そんな目で見るな! そんな悲しい目で私を……」 ナターシャの心は揺れ動いていた。マリアから昨日言われた言葉が今の彼の言動で余計に引っかかってしまう。〝私の見る目が正しければ、ハイデリヒはお前を裏切ったりはしないだろう〟そう言われた事が鮮明に頭に浮かぶ。 「くそ……何で私の心に土足で入ってこようとするんだ……。人間のくせに……私より弱くて非力な人間のくせに……」 「助けてって聞こえた気がしたんだ。君が僕を痛めつけてる時、普通なら勝ち誇った気持ちになる筈なのに、君は確かに助けてって表情をしてたよ」 「……っ!」 ナターシャは、核心を突かれた気がした。この男は、自分を理解しようとしている。この学園に通うと決めた時、ほんの少しだけ本人も気が付かないくらいに期待していた。もしかしたら、自分を受け入れてくれるかも知れないと。 だが、その淡い期待は一瞬で崩れた。彼女を見た時、確かに教師も生徒も嫌なものを見る目で自分を見ていた。その瞬間、全ては一族の為だけにというものになった。味方は一人もいない。全て敵という認識になっていた。 だが、この男は自分を受け入れようとしている。否定せず、存在を認め、尚且つ対等だと言ってくれている。今、この瞬間を逃したら二度と自分を受け入れてくれる者はいないかも知れない。 「私を裏切らないと……約束できるか……?」 「え?」 あまりにもか細い声でナターシャが言った為、シオンは上手く聞き取れず疑問符で返してしまう。 「私を裏切らないと約束できるのかと聞いている!」 「約束するよ」 「分かった……。お前の言う友達という関係は受け入れる」 既に二人しかいない格技室。ぎこちないが初めて見せたナターシャの笑顔に、シオンは一歩前進した事を確かに感じた。
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