使い魔の使役

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教室に戻る最中、廊下を歩いていると何やら言い争う声が聞こえる。男子生徒と女子生徒の言い争いのようだが、シオンには両方とも聞き覚えのある声だった。 「もういっぺん言ってみろ!」 「馬鹿に何度同じ事を言っても理解など出来ないだろう」 シオンが教室の扉を開けると、やはりその声はナターシャとシモンズだった。何故二人が言い争っているのかは今までマリアといたシオンには全く見当がつかない。 「どうしたんだよ二人とも!」 「シオン! この女本当に許せねー!」 今にも殴りかかりそうなシモンズをシオンは羽交い締めにして止める。ナターシャは、腕を組んでそんな彼を見据えている。何故こんな状態になってしまったのかを興奮していたシモンズを落ち着かせて話を聞く。 「こいつが、馬鹿に使役される使い魔は本当に哀れだって言うからよ」 「本当の話ではないか。馬鹿に使役される使い魔ほど哀れな存在など他にいない。何一つ知識も持たず、これから使役されて奴隷のように扱われる使い魔の事を考えたら哀れだと私は言ったんだ」 「別に俺は奴隷みたいにするつもりなんてねーよ!」 「大抵の馬鹿はそういう言い訳をする」 「んだと!」 「シモンズ、落ち着いて! ナターシャは少し口が悪すぎるよ!」 先程落ち着かせたばかりのシモンズが、またナターシャに辛辣(しんらつ)な言い方をされ、頭に血を登らせる。また暴れそうな勢いのシモンズを力いっぱいに制するシオン。 「馬鹿は本当の事を言われると暴力に事を運ぼうとするから困る」 「ナターシャ!」 「本当の事ではない……」 本当の事ではないかと言い終える前にナターシャがシオンを見ると、怒っているのが表情から見て取れる。彼女はシオンが怒っている事に動揺してしまう。 「あ、いや……私は……」 「ナターシャ、言い過ぎだよ。謝って」 「何故、私が」 「ナターシャ?」 「……っ。ごめん……なさい……」 その時、シオンに羽交い締めにされているシモンズ表情から〝え!?〟と聞こえてしまうかと思う程の驚きと唖然が見て取れた。それは周りで見ていた生徒達も同じだった。 それもそうだろう。一昨日までの彼女のシオンに対する態度とは正反対なのだから。シオンに謝れと言われ、大人しくそれを受け入れて頭を下げる。そんな事誰が予想できようか。
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