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「私が間違っていた。シオンの優しさに甘んじてただ守られているだけだった。変わらなければならないのは、他種族だけじゃなくて、私自身もだ」
覚悟の表れたような言葉。ジャッキーは嬉しそうにそれを聞くと、手元にあったカメラを持ち直してシオンの方を向く。
「シオンちゃん、写真撮るからこっちいらっしゃいな!」
「え? 僕も?」
「いいからいらっしゃい。これから伝説になる女の子と初めて写真を撮った事があるのがあなたになるんだから!」
「了解」
シオンは重たい腰を上げ、二人の元へと向かう。ナターシャに白のワンピースに着替えるように促すと、彼女は更衣室に入った。
「んー、あなたはどの服がいいかしらね」
「僕はこのままでいいよ」
「馬鹿おっしゃい。女の子がお洒落にしてるのに、一緒に写る男のあなたがお洒落にしないなんてあるわけないでしょ!」
ジャッキーは急いで服を選ぶとシオンに渡す。そして、早く着替えるように更衣室のカーテンを勢いよく開ける。只ならぬ彼の笑みに気圧され、シオンは更衣室に入った。
「全く二人して世話の焼ける事。でも、まあお互いにない部分をフォローし合う関係っていうのも悪くないわよね……」
二人が着替えて出て来ると、ジャッキーは待ってましたと言わんばかりに、二人を先程ナターシャがモデルをやっていた所まで連れて行く。そして身長差がある二人を見て少し考える。
「シオンちゃん、ナターシャちゃんの後ろに立ちなさい」
ジャッキー指導の元、シオンはナターシャの後ろに行く。
「もっと近づきなさい! 別々に写真を撮るんじゃないわよ! もっと密着!」
ぎこちなく前に立つ彼女との距離を縮めて行くと、白のワンピースを着ている彼女の後ろ姿に見とれてしまう。前に立っているナターシャも徐々に距離を詰める彼の足音で緊張からか、心臓が鼓動が早い。
「あのねぇ! 背後霊じゃないんだから、手を腰に回して抱きしめるくらいやんなさいな!」
痺れを切らしたジャッキーは、カメラを置いて二人に近づくと完全に密着するように二人を押し、シオンの手をナターシャの腰に回させ前で手を握らせる。そして、肩口から顔をのぞかせる様にした。
「そうこれよ!これ! 年寄りじゃないんだから、これくらいでいいの! 」
今の状況はジャッキーにとっては写真に収める上では最高の状態である。ーが、そのポーズを取らされている二人の心臓は破裂寸前だった。シオンはこんなにも密着するとは思ってない上に、ワンピース一枚というナターシャの服装で後ろから抱き締める形になっている。
ナターシャも同様で、後ろから密着するとは思っていなかった為に直で彼の鼓動を感じるのだ。緊張しない筈がない。
「さ、撮るわよ! ……笑えこの野郎!」
もうジャッキーは口調が男になってしまっている。こんな状況で笑顔を見せろという方が難しい話である。本当は笑顔が良ければこの写真も飾る予定だったジャッキーは、いつまでもぎこちない笑顔の二人を見てため息をついた。
「まあ、いきなりは無理よね。分かった。じゃあ撮るわよ」
困った笑顔の二人の写真をその場で現像できるカメラで撮り、ジャッキーはそれをナターシャにだけ渡した。
「あれ、僕は?」
「シオンちゃんは何もしてないから無しよ」
「あ、はい」
ジャッキーから受け取ったナターシャは、その写真を大切そうに眺めるのだった。
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