謎の訪問と使い魔としての想い

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 大体話していた内容は理解したナターシャ。しかし、二人の会話に口を挟む事は無かった。これは主人と使い魔という関係の中での会話中の出来事であり二人の問題なのだ。 「ごめん。僕が浅はかだったよ」 「いいえ、声を荒げてしまって申し訳ありません。でも、私はあなたと本当に短い期間ですが大変だなんて思った事は一度もありません。それに、私はあなただから使い魔になりました。これから先どんな辛い事があったとしても、私は後悔しないと誓います」 「分かった。僕も君に後悔させないように頑張るよ」  良さげな雰囲気に乗じるようにして、スイレーンはシオンに抱き付こうとした。しかし、起きていたナターシャに頭を掴まれ座らされる。 「それとこれは別だ馬鹿が」 「痛っ!本当に力だけは強いですね!あなたは!」 「うるさい。そろそろ着くぞ。降りる準備でもするんだな」  学園に到着した時には既に日が沈みかけていた。汽車を降りてそれぞれ寮へ向かう。男子寮と女子寮は特に区別されていないが、シオンとナターシャの部屋は少し離れているのだ。 「じゃあ、また明日」 「今日は助かった。……ありがとう」  恥ずかしそうにお礼を言ったナターシャに、シオンの心臓の鼓動が少し早まる。それを見ていたスイレーンは眉をひそめるが、見て見ぬ振りする。 「それにしても凄い街だったよ」 「私も地上界の街に行く事は滅多にありませんので、新鮮でしたし噴水も美しかったです」  部屋に帰ってきたシオンは、疲れからかすぐベッドに腰を下ろした。スイレーンは彼の着ていた服を受け取って畳む。 「滅多にって事は行く事もあるんだね」 「私も精霊ですからね、地上に降りて見識を広げる必要があります。その度に男性に声を掛けられて面倒ではありますが」 「空を飛ぶのはやっぱり目立つから地上に降り立つのかな?」 「それもありますし、あとはやはり地上界だと魔力の消費が激しいですから飛ぶと余計に魔力を使います。地上にいられる時間を余計に削ってしまう事になります」  シオンはふと思い出した事があった。彼女に翼が無かった事だ。自由自在に翼を消す事が出来るのかどうか気になり始めた。 「そういえば、翼を無くす事も出来るんだね」 「出来ます。人間により近い見た目になりますので、私が精霊だと気が付く者はいないです。それに、翼が無い方が動きやすいですしね」  そう言うと、スイレーンは翼を出したり消したりを繰り返して見せた。シオンは歓声に似た声を上げ、何故そうなるのかと自然と彼女の翼に手が伸びる。 「ひゃっ」 (見た目以上に軽い……。それに硬いのかと思っていたけど柔らかい羽毛だ。これを一瞬で出したり消したり出来るのか……) 「シオン様……」 「え?」 「翼はあまり触られてしまうと……敏感なんですぅ……」  精霊の翼は細かな制御を効かせるため沢山の神経と毛細血管が集まっている。それを触ると痛くはないが、性的な興奮を呼び覚ます。スイレーンは地べたにへたり込んでしまった。 「あ、ごめん! 興味が湧いたら触ってみたくなっちゃって……」 「大丈夫です……少ししたら落ち着きますから……」  肩で息をしながらスイレーンは言うと、シオンは申し訳なさそうに頭を下げた。
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