謎の訪問と使い魔としての想い

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 シャワールームの脱衣所に入った時、自分以外誰もいない事に気が付いた。普段、シオンがシャワールームに行く時間帯は他にも男子生徒がちらほらといるのだが、今日は珍しく誰もいない。 「休みだったからかな……」  特におかしいとも思わず、シオンは服を脱ごうとしたその時だった。 「シオン・ハイデリヒ……だな?」 「え?」  後ろを振り返ると、首を掴まれ脱衣所のロッカーに大きな音を立てて激突する。物凄い力の為、シオンはそのまま持ち上げられてしまう。 「ぐっ!?」 「お初にお目にかかる。安心しろ、お前を殺しに来たわけではない。この学園に在籍しているのか確認に来ただけだ」  シオンがその自分を拘束する人物の顔を見ようとしたが、何やら仮面をつけており素顔を認識する事は出来ない。声も何やら変えているようで、男性なのか女性なのかそれすらも分からなかった。 「さて、ここには絶対零度の女王もいるんだったな。奴が俺に気がつくまでそんなに時間はないんでな。手短に聞かせてもらおうか。お前は、自分が何者なのか気になった事はないか?」  その仮面の人物がシオンの首から手を離すと、地面に落とされるような形で衝撃を受ける。先程までの苦しさから咳き込むが、やっと呼吸する事が出来た。 「何……者……か?」 「そうだ。何か心当たりがあるはずだ。自分が何者なのかを疑う瞬間が」  仮面の人物にそう言われ、シオンは自分が無意識にウリュクハ言語を喋っていた事を思い出した。何か心当たりがあるという表情をしているシオンに彼は屈んで覗き込むようにシオンの顔を見る。 「ある……といった表情だな」 「何……?」 「もし今、無いと言葉で発しても無駄だ。俺はお前が何者なのかを知っているのだからな」 「!?」 「シオン様!」  パブコードでシオンの変化を察知したスイレーンが、勢い良く脱衣所に飛び込んでくる。そして、シオンを庇うように前に立つ。 「何者ですか」 「何者……か。言うなら、審判し消し去る者(ジャッジメントイレイザー)とでも言っておこうか」 「審判し消し去る者(ジャッジメントイレイザー)ですか。まるで自身を神か何かと勘違いされているようなお名前ですね」 「神か。語弊があるな。神はただ見ているだけの存在。俺は審判し罪を償わせる者だ。ただ見ているだけの存在とはわけが違う」 「神を冒涜なさるということですか?」 「違うな。真実を言っただけの事だ」 「あら、真実は考え方一つで幾らでも形を変えるものじゃないかしらね?」  脱衣所の外から声が聞こえ、スイレーンが後ろを振り返る。そこにはミレディが立っており、その審判し消し去る者(ジャッジメントイレイザー)を見据えていた。 「ようやく登場か。絶対零度の女王」 「わざわざ待っていてくれたのね。ありがたいわ」  スイレーンに目配せしてシオンを守るように促す。シオンを抱いて、スイレーンは翼を広げてシオンを覆うように態勢をとった。 「その長い名前のあなたはここに何をしに来たのかしら?」 「そこの少年に会いに来た。まだ〝覚醒〟には程遠いようだったがな」  ミレディの目つきが変わる。今、目の前にいる仮面の人物はシオンの力の存在を知っている。何処から得た情報なのか、ミレディには探る必要があった。 「大人しくここで捕まってくれたら痛い目に遭わないで済むけれど……どうかしら?」 「捕まるわけにはいかんな」  仮面の人物がそう言った時、ミレディの魔力が一気に膨れ上がる。学園全体が揺れる程の魔力の振動にスイレーンは驚きを隠せなかった。 (普通の人間が持つような魔力じゃない……! これはもう精霊の私よりも高い魔力) 「さすがだな。ここまでとは想定外だ。少し相手をしてやろうかと思ったが、〝今〟の俺ではさすがに敵いそうもない」 「なら、大人しく捕まってくれる?」 「それは遠慮しよう……!」  仮面の人物は転移魔法を使い脱衣所から姿を消した。ミレディは辺りを魔力感知で探ったが、生徒や教師以外の反応は無く、かなり遠くに転移した事を察すると魔力を抑えた。
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