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ミレディは急いでシオンも元へと走る。どうやら気絶しているらしく、スイレーンが介抱していた。見た感じから呼吸はしているらしく、規則正しく上下に胸が動いている。
「シオンの容態は?」
「首に跡が付くほど強い力で掴まれたようです。軽度の捻挫が見られます。でも、命には別状はないです」
「そう、良かった……」
「先程の仮面の者の事ですが、あなたは何かご存知なのではないですか?」
ミレディが安堵したのと同時に彼女からの質問が飛ぶ。彼女の表情は伺えないが、シオンの介抱をしながらも明らかに怒っている事が声から分かる。
「今は言えないわ」
「今は? 今、シオン様は殺されかけたんですよ? 私がパブコードで精神状態が分かったからいい様なものの、もし誰も来なかったらどうなっていたと思うんですか!」
脱衣所に乾いた音が響いた。スイレーンがミレディの頬を掌で叩いたのだ。ミレディの叩かれた頬が赤くなる。しかし、彼女はそれを意に介さずスイレーンを見た。
「分かってる。私も想定外だった。でも、今は言えないの……分かって……」
音を聞きつけて人がどんどん集まってきた。教師と生徒が野次馬となって集まった頃、中をかき分けてマリアがやってきた。
「お前たち邪魔だ! 寮へ帰れ!」
脱衣所で横たわるシオンと、その側にいるミレディとスイレーンを見て何かを察したマリアは、他の教師に頼んで自分も含めた四人だけを脱衣所に残した。
「何が起きたのかは聞かない。だが、ハイデリヒは私の生徒だ。今、ハイデリヒはどうなってるんだ?」
鋭い眼光がミレディへと向けられる。彼女は少し間をおいて口を開いた。
「今、見ての通り彼は気絶してます。でも、問題はないでしょう。時期に気がつくはずです。シオンの使い魔が言うには首に軽度の捻挫が見られるとの事です」
「そうか」
脱衣所で転んだわけではないというのは、脱衣所の状況を見てもマリアは分かった。ロッカーにあれだけの凹みを作る程の衝撃をシオンが何かしらで受けたのだろうと安易に予想がつく。そして、ミレディがこんな場所で学園が揺れる程の魔力を解放していた事も只ならぬ何かを予想させた。
「とりあえず、お前達だけが目にした事を心の奥にしまって誰にも何も言うな。内容は知らないが私が預かる」
マリアはそれだけ言うと脱衣所を後にした。廊下で未だ騒ぐ生徒達を一喝し、寮へと帰らせると自分も職員室へと向かうのだった。
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