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約束
朝のホームルームにて、昨日起こった件とその処分についての説明がマリアからなされた。生徒達は騒ついたが、マリアが一喝してそれを静まらせる。会議の結果、彼女には一ヶ月の校内清掃及び反省文らしい。それと今回の件で自分が担当するクラスに彼女を受け入れると手を挙げる教師が一人もおらず、声を上げた人間が彼女を受け入れるべきだとライザが発言し、彼女はマリアの受け持つクラスへと移動する事となった。
「ナターシャ・ウルスアグナ。入れ」
教室の扉を開け、ナターシャが入る。彼女の表情からは疲れとも諦めとも取れるものがシオンからは見て取れた。
「ウルスアグナは、これから私のクラスでお前達と生活していく事になる。先に言っておくが、私は生徒に差は付けない。お前達が、もし嫌だと言うなら私個人に言え。少なくとも、ウルスアグナはお前達が強くなる為の指標にもなる。現段階でこいつに勝てる者はこのクラスには一人もいないだろう。ウルスアグナ、これからお前と親交を深めるであろう他生徒に謝罪と挨拶をしろ」
マリアは隣に立っているナターシャにそう促す。
「私はエルフだ。貴様ら他種属が私に何か文句があるなら実力で来い。勝てるなら何でも望みを受け入れてやる。以上だ」
そうナターシャが言い終えると同時にマリアの鉄拳が彼女の頭に落とされた。あまりの痛さにナターシャは苦悶の表情を浮かべてマリアを睨みつけながら見る。
「私がしろと言ったのは謝罪と挨拶だ。お前がしたのは挑発と挑戦だ。私の隣にいて言葉が聞こえなかったわけじゃあるまい?」
ウルスアグナは人間相手に初めて恐れをなした。絶対零度の女王とはまた違う何か絶対的な力を感じたのだ。
「わ……私はナターシャ・ウルスアグナ。お前達には怖い思いをさせたと思っている……。これから、よろしく頼む……」
マリアの迫力にナターシャは言う事を聞かざるを得なくなり、先程とは全く正反対の大人しい挨拶をして空いた席に着いた。その時、ナターシャは驚きの表情を浮かべる。横の席には昨日自分があわや命を奪おうとしたシオンが座っていたのだから。
「き、貴様何故……!」
「何故って、僕はここのクラスの生徒だからね。たまたま君が僕の隣の席だったってだけだよ」
「私に力で勝てないからといって、精神的に痛みを与えようとしているという事か。やはり人間は汚い真似をする」
「違うよ。僕はまず、君がここのクラスに来るなんて今マリア先生から聞くまで知らなかったんだから」
平然と言ったシオンに口籠る。しかし、それ以上に何故そんなに平然としていられるのかがナターシャには理解できなかった。自分の席、シオンとは反対側に座る生徒は明らかに恐れを抱いている。しかし、自分が痛めつけたシオンは平気そうな表情をしているのだ。
「あまり、きょろきょろしてるとマリア先生にまた怒られるよ」
シオンに言われ、他種族に指図される事を嫌うナターシャは文句の一つを言おうとしたが、彼の言った通りマリアがこちらを真っ直ぐ見ている事気が付いて、大人しくするのだった。
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