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使い魔の使役
ナターシャへの風当たりは短期間では変わらない。しかし、シオンは確かに前進した事を感じていた。ぎこちないが確かに昨日、彼女は自分に笑顔を見せてくれた。今日は昨日マリアが言っていたように使い魔を使役する事になるわけだが、自分がどんな使い魔を使役するのか楽しみでもあった。
寮を出て学園に着き、教室に入るとナターシャの姿が目に入る。彼女の横が自分の席の為、横に座る。
「おはよう、ナターシャ」
「お、おはよう……」
ぎこちないながらも、しっかりと挨拶を返してくれた彼女に不思議と笑みが溢れる。すると、それを少し馬鹿にされたのかと感じた彼女が睨む。
「私が挨拶したのがそんなに変か?」
「いや、違うよ。嬉しかったんだ。後は僕の名前をちゃんと呼んでくれたらもっと嬉しいよ」
「うるさい……。そ、それに余り私に構うと周りが貴様を変な目で見ることになるぞ」
「いいよそんなの。気にしたことないから」
ナターシャには、シオンのその言葉が嬉しかった。が、表情には出すまいとふんっと鼻を鳴らしてそっぽ向いてしまう。
「素直じゃないなぁ……」
「ハイデリヒ、少し時間あるか?」
突然教室に入ってきたマリアがシオンに声を掛ける。まだホームルームまでには時間があり、シオンはマリアに着いて行く。その姿を少し不安そうな表情でナターシャは見送った。以前、使用した事がある空き教室にやってきた二人。
「先生どうかしました?」
「いや、お前がウルスアグナと話してたのが目に入ったもんでな。お前、よくあいつを説得出来たな」
「説得できたかは分かりませんが、進展したかなとは思います」
「どうやら、お前は女の扱いが上手いらしいな」
「へ?」
「お前、教室から出る時のあいつの表情見たか?」
マリアが突然意味がわからない事を言い出した為、シオンの頭には疑問符が沢山飛び交っている。
「見てないですけど」
「私に呼ばれて席を外したお前に、明らかに不安そうな顔をしていたんだよ。完全にお前を意識している。多分本人は気が付いていないだろうがな」
「一日二日でそんな事ありますかね……?」
「自分を特別扱いしてくれて、優しい言葉を投げかけてくれる男を気にならない女がいると思うか?」
エルフである前に女なのだと力説するマリア。なんの話だこれは、とシオンは思ったが下手に何か言えば角が立つと頷くほか無かった。
「全く関係ない話をしてしまったな。とりあえず、お前には感謝しているよ。ウルスアグナの心にある氷塊を少しだが溶かしているようだ」
「いえ、先生も職員会議で色々言ってくれたってミレディさんから聞いてます」
「別に何も言ってないさ。たまたま、私に文句を言う馬鹿がいるもんでな。その馬鹿に好き勝手させるのは性に合わないというだけだ」
「馬鹿?」
「こっちの話だ。もうホームルームも始めるから教室に戻れ。時間を取ってすまなかったな」
マリアのいう馬鹿が誰なのか気になったシオンだったが、マリア自身も生徒に聞かせるわけにもいかず、教室に戻るように指示をして自分も職員室に一度戻るのだった。
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