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謎の訪問と使い魔としての想い
誰でも綺麗になれるわよ店でナターシャは紆余曲折あったが、手に白のワンピースが入った紙袋を持ってシオンと店を出た。帰りしなに、シオンはジャッキーから〝彼女を大切にね〟と言われ頷いた。
「凄いオーナーだったね」
「ああ。だが、私としては凄く助かったし色々学んだよ」
「ん? 良かったね?」
先程のジャッキーとの会話の内容を知らないシオンは疑問符で返す。ナターシャは頷いて笑っていた。既に空は夕焼け色に染まっており、綺麗なオレンジ色が街を照らしている。
「シオンは何もいらなかったのか?」
「うん。僕は今のところ欲しいものはないかな。でも、またここには来たいなって思う。まだ、ジャッキーの店しか知らないしね」
「タスクでの初めて来た店が衝撃的だったからな。多分、他のどの店に行ってもここまでの衝撃は他にない筈だ」
シオンは同意して頷く。しばらく歩いてまた広場まで出ると、何か騒ぎがあるようで人集りが出来ている。二人も何が起きているのか気になって様子を見に行くと、一人の女性がナンパと思われる複数の男に囲まれているのだ。
「しつこいです」
「暇なんだろ?良いじゃねーかよ」
シオンは確かに綺麗な人だとは思った。が、次の瞬間その表情から血の気が引いた。ナターシャはあまり興味なさそうな表情をしていたが、シオン同様に表情が驚きに変わる。
「しつこいですよ。一回痛い目に合わないと駄目ですか?」
「どうやって、痛い目に合わせてくれるのか俺気になっちゃうなぁ」
ーそう、服装も翼もないがシオンがよく知る人物もとい、使い魔であるスイレーンその人であった。
「分かりました。じゃあ、教えてあげます……ね!」
彼女に触ろうとした男の腕をスイレーンは掴むとそのまま捻り上げて蹴り飛ばす。空中に浮いた男は呻き声と共に硬い地面に落ちた。あまりの痛みに動けない男に、スイレーンは屈んで顔を覗き込む。
「どうでしたか? 痛い目に合ったご感想は?」
声にならない呻き声を上げる男は、彼女の夕日に反射した表情を見て恐怖した。笑っているが、目だけは明らかに笑っていないのだ。
「シオン、あれは……」
「今日は来ないって言ってたんだけどな……」
スイレーンも見た目だけを言えば、ミレディにもナターシャにも引けを取らない美しさを兼ね備えている。それ故に人集り、主に男達からナンパにあったのだろうと予想は出来る。しかし、まさか翼を消して完全に人間のような姿になれるとは予想も出来なかった。
「あ、シオン様!」
スイレーンがようやくシオンに気が付いて走って来る。その人集りの男達は〝シオン様だぁ?〟とその呼ばれた人物を探している。
「シオン、危険が迫って来るぞ」
「そうだね……目の前から危険が迫って来てるね……。あと、危険にこれからなる人達もいるんだよね……」
勢い良くシオンに抱き着いたスイレーンは、幸せそうな表情をしている。反対に抱きつかれたシオンの表情は絶望しているように見える。
「どうですか? 翼の無い私は?」
「馬鹿使い魔め……」
ナターシャが何故自分を馬鹿呼ばわりしたのか分からない様子のスイレーン。周りはというと、関係性を知らない側から見れば今の状況は美女に抱き付かれる少年の図である。そして様呼ばわりとなれば、余計に腹が立つだろう。
「なんなんだ、あのガキ……」
「ふざけんなよ、ただのガキじゃねーか」
ちらほらと聞こえてくるシオンへの悪口。ナターシャも苛立つが、それ以上にスイレーンは自分の愛する主人様の悪口を言う男達に苛立ちを隠せないでいる。
「何ですか? 私が彼に抱き着いて何が悪いんですか? 自分の愛してる男性に抱き着いたら何か問題でも?」
「ははは……」
気にしていないよと、シオンはスイレーンに言おうとしたが、次の瞬間彼女はとんでもない発言をする事になる。
「私の身も心も全て彼のものですよ? その意味くらいわかりますよね? 」
「馬鹿が……」
そんな事を言ってしまったら余計に事を荒立てるだろうとナターシャは思い、口から自然と出てしまう。しかし、スイレーンとしては確かにそれもあるが使い魔としてという意味合いが強い。
「あんなガキにあの美女が全部捧げたってのか……」
「ありえねぇ……。あんなガキが俺達の知らない花園を見たって事かよ……」
どうやら効果はあったらしい。男達はぞろぞろとこうべを垂れながらその場からいなくなっていく。そんな彼らにスイレーンは舌を出して挑発するような行為をする。
「勘違いされるような事言ったら駄目だろ?」
「いずれはそうなりますから大丈夫です! それに、私は精霊ですけど普通の人間と交わる事は出来ますよ?」
「本当に精霊なのか貴様は」
ナターシャの突っ込みが入った所で、ウェルヘイト行きの汽車がタスクに到着した。シオン達は汽車に乗車し、ウェルヘイトへ向けて出発した。
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