第1章

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 大晦日。ぼくは彼女の部屋を訪れた。  どうやら読書中だったらしい。着物姿で窓枠にもたれかかり、手元の『夢十夜』へ視線を落としていた。椿の花と雪景色に彩られた彼女は神秘的で、思わず心を奪われる。  だからだろうか。  ――今しかない。そう思った。  ぼくは静かに歩み寄りながら、勇気を振り絞りその言葉を口にした。   「雪が綺麗ですね」  すると彼女は一瞬目を見開いた後、顔を上げ窓の外を眺めながら呟く。 「ええ。今夜の月もきっと」    雪はいまだ降り続いている。  しかしその瞬間、月明かりは確かにぼくらを照らしていた。
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