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「ひやぁ!!!」
湯に濡れた凛の肩をぴしゃりと音を立てて、硬い舌先が這った。
「変な声出さないでくださいよ。色気ないですね。」
「お前に対して色気なんてあってたまるか!触んなって言っただろ?!」
「約束した通り、指では全く触れてません。」
しれっと言う。振り向くことに危険を感じ、ばしゃばしゃと後ろ手にガブリエルに湯をかける。ふたつの手は凛を捕らえるように、でも触れないように浴槽の端にかけられている。
「ほんの冗談ですよ。何にもしませんよ。」
「した!」
「あんなの何かしたうちに入りません。可愛いなぁ、凛は。」
凛のほっそりとしたうなじの上に、ちゅっと唇が落とされた。
「ぎゃぁっ!!!」
ガブリエルはくすくすと笑いながら離れていく。すっかり妙な汗をかいてしまったから、そのまま出るわけにもいかず、大急ぎで髪と体を洗って先に出た。
その間「やっぱり温泉はいいですねぇ。」と言って、ガブリエルは湯にたぷたぷと浸かっていた。
浴衣の上に何も羽織らず離れから裏庭に出て、凛は空を見上げる。ぴんと張った冬の空気にささやかに響くように、星が空いっぱいに瞬いていた。
年上とばかり付き合ってきたから、同い年の友達は初めてかもしれない、と思いあたる。同級生とはうまく付き合いながらも、どこか距離を取っていた。生徒会が居心地良過ぎて、それ以外は面倒だったからだ。
自分がいた場所も流れていくように時は容赦なく過ぎていく。もう過ぎ去った時に戻ることはない。
生徒会室のソファーで、薫の隣は凛の定位置だった。外では絶対に隙を見せない薫が自分の横でくつろいでいるのを感じるのが好きだった。その肩にもたれるのが心地よかった。そうすることを許されているのも感じていた。大好きだった。憧れていた。
僕じゃ生徒会長って感じじゃないんだよね。そう思ってまた、ガブリエルの言葉が胸に沁みた。凛にしかないアイドル性、そんなものがあるのかわらかなかったけれど、自分を認め励ましてくれるのが嬉しかった。
やっとお風呂から上がってきたガブリエルの気配を察して和室に戻り、寝巻き用の浴衣を着せてやると「おぉ!ジャポンですね!」と無邪気な笑顔を見せた。襟を正し、しゅるりと帯を結ぶのを嬉しそうに見ている。
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