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「えーーー、ひとりで寝るのは嫌です。まくら投げとかするのがお泊まりの定番じゃないですか!あれ、憧れてたんですよね。」
「枕投げなんてしない!」
「だって、夜中にトイレ行きたくなって、廊下の鏡とか見ちゃったらどうすればいいんですかー。湿っぽいカイダン(怪談)ボク苦手です。」
「廊下に鏡はない!」
「無理!障子の向こうに影とか映ったらどうすればいいんですかー。ひとりにしないでくださいー。」
ガブリエルにはこの調子でいつも押し切られている気がする。仕方なく、畳に布団を並べて敷く。布団の間をどれほどにするかでしばらくせめぎ合う。間が二十センチほどになったところでやっと「おやすみ」「おやすみなさい」と言い合い灯りを消した。
「凛はすごくモテるのになんで彼女いないんですか?毎日学校の外でプレゼント持ってる女の子が待ってるじゃないですか。」
静かな和室に声が落ちるように響く。
「そーれはガブちゃんがいつも一緒にいるからだよ。」
出待ち的な女の子は以前からいたが、今はその比ではなく盛り上がりを見せている。ガブリエルとふたりで行動していると目立ってしょうがないのだ。
「明日はクリスマスコスしてふたりでいちゃついたら、すごくウケると思うんですけどー。」
「ヤダ!そういうウケ狙ってない!」
「返事早いですね。…好きな女のコとかいるんですか?」
「…んー、今はいない。付き合ってる彼女がいたこともあるけど、思われてる分に気持ちが追いつけなくて。難しい。」
正直、薫への憧れ以上に心が動かされない。クールで遠慮のない岳人と話すときの爽快さが感じられない。いつも一緒にいるガブリエルとの気楽さや安心感、それ以上のものを感じられる気がしない。
比べるわけではないけれど、女の子に同じ重さの気持ちを返せないことが凛から恋愛を遠ざけていた。ふぅと小さなため息をつく。
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