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書家の名門、しかも本家長男として生まれた凛の将来は幼い時からほぼ決まっていた。下には二人妹がいて同じく書道を小さい頃から嗜んでいるが古めかしい風習残る代々続く家では凛ひとりに注目が集まった。多くの従兄弟たちからは闘争心相まり一線を引かれている。そんな環境で得た処世術が見た目はチャラチャラと愛想を振りまきながらも、書道の腕だけは真剣に磨くこと。
「そういうのは疲れないのかなぁって。」
言いながら親指と人差し指で水面を弾くように凛の顔に湯を飛ばす。
「疲れる、とか考えたことなかったな。家でいろいろやらなきゃいけないのはずっと当たり前だったから、疑問に思うとか言う余裕もないし。生徒会は居心地がいいから全然何やってても苦じゃないし。」
生徒会の中でひとり二年だけれど、大人との付き合いに慣れているから気後れすることもなく、そんな凛に遠慮なく接してくれるみんなが好きだった。薫はずっと特別な存在だった。なんでもスマートにこなす副会長の岳人(がくと)とは軽口を叩き合う。誠実で周囲に気を遣う純央とは安心して過ごせた。ひとりを好む会計の吉野(よしの)もなんだかんだ言って生徒会に愛着があるのを知っている。
「いいですね、自分の場所があるっていうのは。いつもお世話になってばっかりだから、ボクでよかったら話くらい聞けるかなって思ったんですけど。」
いつもグイグイと間を詰め、いつの間にか近くにいるガブリエルが、こんな風に言うのは意外だった。
「ありがとう。でも年明けたら次のメンバーに仕事引き継ぐから、もうおしまい。ちょうどよかったね。今日のパーティー打ち上げって感じで。」
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