Iがある場所で(3)

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夏休み、ホノカと会って話す事はなかったが、リオとは毎日の様に会った。 学校にいる時の体操服を着たリオよりも、私服を着ている時の方がヨウスケは好きだった。 「今日は元気よく短パンにしたの。どう?」 生足を前に出して腰に手を置き、ヨウスケを見ていた。 夏の陽射しで焼けた肌はキレイに小麦色で、短パンから伸びた両足は健康的に見えた。 「このピンクのガーディガンもお気に入りなの!」 何も絵柄のない白いTシャツに手編み風のカーディガンはボーイッシュな中に程よく女の子を感じさせた。 「ウン。よく似合っている!」 ヨウスケが微笑むと、「ヨウスケに言われると嬉しくなる!」とリオが人目も気にせずに抱きついて来た。 「ダメだよ。図書館の中じゃないけど」 夏休みに入って、リオは以前よりも大胆に感情を見せた。 何時だったか、日本人は気持ちを隠してしまう所があると言っていた。 外国生活のあるリオは、感情を包み隠さずに表した。 ヨウスケもそんなリオを好きだったし、可愛いと思う気持ちに変わりなかった。 「照れてるの?」 「分かった。分かった!」 柔らかな胸の感触がヨウスケの照れを誘った。 だからと言って、リオにサイズを聞いたことはない。 でもTシャツの膨らみを見ると、リオの胸が大きくなった気がしていた。 「中に入る?」 自動ドアが開いて、顔を見合わせた二人はまだ笑っていた。 「シー!」 リオが指を唇に当てた。 まだミユキやホノカには遠く及ばないかも知れない。 でもリオを抱きしめた時、その柔らかな固まりがどれほどなのかはヨウスケも分かっていた。 今はまだ、冗談でも谷間に顔を埋めたいとは言えない。 「ここにする?」 リオと並んで腰を掛けた。 時々、勉強中に隣りのリオを見て、カーディガンから覗く胸の膨らみに目を向けた。 「やっぱり気になる?」 見ているのを気付いたのかリオから訊ねられた。 「多分、あそこにいる葉山くんだと思うんだよね?」 ヨウスケが見ていたのとはまるで違う窓の外をリオも見始めた。 図書館の周りには緑豊かな公園がある。 その木陰にギター抱えた少年が立ったままで歌っていた。 ガラス窓で声は聴こえない。ただ彼の周りに数名の通行人が足を止めて耳を傾けていた。 ヨウスケは黙って外を眺めるリオの横顔を見ていた。
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