2人が本棚に入れています
本棚に追加
「誰、って……コトだよ。琴子、藤形琴子……同じクラスの」
縋るように藍田さんの服を掴んで問い掛けても、首を横に振るばかりで私が望む答えは返ってこない。
うろうろと視線をさ迷わせ、ぴたりと止める。
シーツの上に、一つのヘアゴム。
高校生が使うにはあまりに幼いデザインのそれに、心臓が高鳴る。
幼い頃、これで琴子ちゃん人形の髪を結んでいた。
お揃いだよ、とにこにこと笑いながら。
どうして気付かなかったんだろう。
コトは、琴子ちゃんだ。
いつまでも戻らない私を待つ、忘れ去られた孤独な人形。
身体中に残る無数の手の痕をなぞり、俯いた。
「……忘れてて……ごめんね」
人は、勝手だ。
寂しい時、辛い時に縋って――気が済めば、簡単に忘れてしまう。
コトの嘆きが、胸に刺さる。
あれは、私だ。
たかだか名前ひとつで人生を悲観して、踏み出せないでいる私。
そうだね、ひとりはこわい。
「……藍田さん」
「ん?」
「もう、大丈夫。ありがとう」
心配は要らないよ、コト。
私には、貴方がいる。貴方が寂しくないように、いつだって傍にいる。
ヘアゴムを握り締め、藍田さんに笑みを送る。
その背後に、コトの昏い瞳を見つけてひどく安堵した。
これからもずっと友達だよ――今度こそ、やくそく。
fin.
最初のコメントを投稿しよう!