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触れるだけの動きは逃げようともがけばもがくほど強く皮膚を抓り、裂かれるような痛みをもたらしてくる。
「ゆーびきりげんまん
うーそついたら
はりせんぼんのーます」
突然聞こえてきた歌に、身体が強張る。
これは夢なのだと思おうとするほどに全身の痛みが現実なのだと突き付けてきた。
なんで、この歌が――。
どこから聞こえてくるのかとゆっくりと視線を動かせば、私に手を伸ばしたまま動きを止めたコトの姿があった。
目はどんよりと濁っていて生気がないコトは、件の歌に合わせて唇を動かしている。
歌声は、私が知るコトの声とはまるで違う。
幼い女の子――夢に出てくる、あの女の子の声。
「やくそくしたのに」
「何、なんの……」
唸るような声音で吐かれた言葉に判らない、とかぶりを返せば全身を這う手が皮膚に爪を衝きたててきた。
引き攣れた痛みに叫びを上げても、コトは生気のないままゆらりと近付いてくる。
「また遊ぼうって やくそくしたのに」
「……」
琴子――。
名前を呼ぼうとした声は、突然蘇った懐かしい記憶に飲み込まれた。
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