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子どもの頃は、今以上に自分の名前が嫌だった。
女の子は皆、花や希望溢れる文字から付けられた名前なのに――私だけが古風な名前で。
よく男子にからかわれては、1人こっそりと泣いていた。
そんな私におばあちゃんがプレゼントしてくれたのは当時流行っていた、着せ替え人形。
色んなタイプの人形がある中、おばあちゃんが選んでくれたのは長い真っ黒な髪に、真っ黒な瞳の女の子――琴子ちゃん。
琴子ちゃんは名前も外見も地味で、絶大な人気を誇る花音ちゃん人形に比べ人気は無く、持っている子は少なかった。
それが、まるで私のようで――大切に大切にしていた。
なのに、いつからか琴子ちゃん人形で遊ばなくなり、今ではどこにあるのかさえも判らない。
目の前のコトは、琴子ちゃん人形に瓜二つで。
気付けば、その冷たい指先が首を掴んでいるせいでまともな呼吸が出来ないでいた。
「ずっとお友達だって 言ってたくせに」
「……ッ。」
「さむいよ ひとりきりは こわいよ」
だから――、一緒に。
私を見つめるコトの瞳は人形のように光りが無く、仄昏く淀んでいる。
ドクドクと鼓動が煩く、なのに頭の芯は冷え切っている。
「古館さん?」
目の前が真っ白になり、意識が飛びそうになった瞬間、凛とした声が割って入った。
同時に身体中を這っていた手も、首を掴んでいたコトも消え去り、突然肺に飛び込んできた新鮮な空気に激しく噎せこんだ。
「大丈夫!?」
「あ、藍田……さん?」
朦朧とする意識の中、視界に映り込んだのは学級委員の藍田さん。
突然倒れたから心配になって、と言いながら背中を撫でてくれる手が温かくて心から安堵した。
息を整えながらコトは? と問い掛けると、藍田さんは首を傾げた。
「誰……?」と。怪訝な表情で。
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