やくそく。

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「誰、って……コトだよ。琴子、藤形琴子……同じクラスの」  縋るように藍田さんの服を掴んで問い掛けても、首を横に振るばかりで私が望む答えは返ってこない。  うろうろと視線をさ迷わせ、ぴたりと止める。  シーツの上に、一つのヘアゴム。  高校生が使うにはあまりに幼いデザインのそれに、心臓が高鳴る。  幼い頃、これで琴子ちゃん人形の髪を結んでいた。  お揃いだよ、とにこにこと笑いながら。  どうして気付かなかったんだろう。  コトは、琴子ちゃんだ。  いつまでも戻らない私を待つ、忘れ去られた孤独な人形。  身体中に残る無数の手の痕をなぞり、俯いた。 「……忘れてて……ごめんね」  人は、勝手だ。  寂しい時、辛い時に縋って――気が済めば、簡単に忘れてしまう。    コトの嘆きが、胸に刺さる。  あれは、私だ。  たかだか名前ひとつで人生を悲観して、踏み出せないでいる私。  そうだね、ひとりはこわい。 「……藍田さん」 「ん?」 「もう、大丈夫。ありがとう」  心配は要らないよ、コト。  私には、貴方がいる。貴方が寂しくないように、いつだって傍にいる。  ヘアゴムを握り締め、藍田さんに笑みを送る。  その背後に、コトの昏い瞳を見つけてひどく安堵した。  これからもずっと友達だよ――今度こそ、やくそく。 fin.
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