第1章

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「あ、そういえば」と彼女は何かを思い出したように教室の扉の前で振り返る。 「ねぇ先生。先生はペット飼っている?」 「ペット?いいや飼ってないよ」 「ずっと」 「ああ、小学校の時は飼っていたけど。それからは飼っていない」 ふーん、と彼女は言うと何かを呟いた。 「え?何?」 「なんでもなーい!」 嘘だ。ちゃんと僕の耳には届いていた。 懐かしい記憶を思い出す。 「何で死んじゃったのかな。寂しかったから死んじゃったのかな」 小学生の時の記憶だ。寂しいと死んでしまう、という訳のわからない噂を信じていたころの可愛い記憶だ。 その時はもう寂しくさせない、とともに、そんな自信はないからもうペットなんか飼わないと決めたのだ。庭に埋めながら、約束をしたのだ。 「じゃあ、先生。また明日」 「ああ、明日な」 彼女が歩いている廊下から、でたらめな歌が聞こえてくる。 『寂しいくらいじゃ死なないよー』 ホントかよ、とそのでたらめな歌に突っ込みをいれて、約束、守れるかな。守りたいな、と僕は静かに心に決めた。
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