0人が本棚に入れています
本棚に追加
※
A 「ひゃくななつ…」
大晦日。里子がぽつりと呟いたのは、恐らく除夜の鐘の事だろう。
体の弱い里子がこんな時間まで起きているのは珍しい。平気そうにしているがじき日付も変わる。起きているだけでも体力は限界のはずだ。
B 「後1つ、鐘を聞いたらもう寝なさい。幾ら大晦日でも、こんなに起きていると体に障るよ。」
A 「うん、そうするわ…」
戦後数年経って、僕らはやっと少しは人並みに年を越せる様になった。
僕と里子はイトコだ。里子の面倒を見るのは正直大変だった。だが里子がいたから僕は強く生きられた。
互いに家族を無くした僕ら。これからは里子が僕の生きがいだ。
煩悩が清められる音を待つ永遠の様な静寂。それを破ったのは里子だった。
A 「百八つ目が鳴る前に」
B 「ん?なんだい?」
A 「好きよ。」
―ゴーーン
確かに響いた百八つ目の鐘は、僕の耳には届かなかった。
終
最初のコメントを投稿しよう!