名前のない感情

17/27
前へ
/186ページ
次へ
大丈夫だ。 全然、笑える。 「じゃあ適当に座っててよ、僕作るから。」 「んー、じゃあお願いしちゃおっかな。」 学ランを脱いで鼻歌を歌う晴斗。 2人共有のエプロンを着て、キッチンに立つ優斗。 (……ブラコン、いつになったら治るんだよ。 兄さんに初カノが出来たんだぞ。心から喜んでやれよ、自分) 沈む心とは裏腹に、ハンバーグを作る手だけは、やけにスムーズだった。 「……ねぇ。」 「ん?」 「……おめでとう。」 背を向けたまま、優斗は呟いた。 今自分が、喜んでいるのか悲しんでいるのか、はたまた怒っているのか悩んでいるのか、よくわからなかった。 「ああ!」 晴斗は何も知らず、いつもみたいに明るい笑顔でニカッと笑った。 (うん、大丈夫だ。 僕、おめでとうって言えた。 おめでとうって思ってる) 優斗は自分自身に言い聞かせる。 (兄さんごめんね。僕、兄さんを取られたくないからって、叶いっこないなんて思って) 兄を取られたくなかっただけだ。 今に慣れる。 そう思って疑わなかった。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!

204人が本棚に入れています
本棚に追加