名前のない感情

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自分は弟で、兄が大好きだなんて当たり前だろ? 当たり前だ。 だって両親が亡くなってから、ずっと2人で生きてきたんだから。 たった2人で、生きてきたんだ。 ねぇ、お母さん、お父さん。 僕間違ってないよね? 普通の弟だよね? ちょっと僕が、兄さんを好きすぎるだけだよね? 料理をしながら、変な汗が浮かんだ。 兄さんは、家族として好きだ。 だけど、これは……本当に、 ただの、家族愛? それ以上は、考えたくなかった。 考えたら、何もかも変わってしまう気がして、怖かった。 優斗は鍋に蓋をしながら、自分の気持ちにも蓋をした。 逃げたのだ。 自分の気持ちから。 自分は正常な人間だと思いたいのはもちろんのこと、 もし、この嫉妬心が兄に知られたら? 気持ち悪がられるかもしれない。 それが、たまらなく嫌だった。 今まで通り、『仲良く暮らしていければ幸せ』。 例え、兄に彼女ができようが。 だけど、閉じた蓋が無理矢理こじ開けられた時、どうなってしまうかまでは考えなかった。
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