91人が本棚に入れています
本棚に追加
窓の外を見れば雪が降り積もる。
シンシン……
音もないのにそんな言葉がよく似合う景色だ。
「ねえ、明日あたしは本当にお嫁に行けるのかしらね?」
音のない空間でお嬢様がそっと呟いた。
明日、お嬢様はお嫁に行く。
落ちぶれた華族に目を付けた成金の元へ。
年もお嬢様のお父上と変わらないというのに。
「この本、今夜中に読まないと」
荷物は全部運んでしまった。
明日は身一つでお嫁に行くのだ。
「お嬢様」
「なに?」
「一緒に駆け落ちでもしましょうか?」
そう言うとお嬢様は少し驚いて、それから柔らかい笑みを見せた。
「ねぇ、どこに行く?」
「どこへなりと」
「遠くがいいわ。誰もあたしを知らないどこか」
「ではそういたしましょう」
そしてお嬢様は栞をそっと挟んだ。
【END】
最初のコメントを投稿しよう!