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部屋から朝食を取らずにゴミ袋を持って外へと出ると、島田の部屋へと行く。奥さんがいるのに、どうして私が島田の分のゴミを捨てるのかというと、島田の奥さんはもともと足が悪いのだ。その上、引っ越ししてきた時に大きめの冷蔵庫の下敷きになってしまった。
「弥生さん。夜鶴です」
玄関をノックすると弥生が出てきた。赤い髪をしていて、カールが無数にある。中々の美人である。
「あら、夜鶴さん。お早う。ゴミお願いね」
弥生はそう言うと、車椅子をキーコキーコと器用に回し、台所から大きなゴミ袋を膝に載せてきた。
「今日もゲーセン」
水色のブラウスにバラの模様が刺繍してある。確か刺繍が趣味なのだ。
「ええ。島田よりはハイスコアがだせるので、今日は170点を目指そうかと……」
「ハハッ、頑張ってね」
二つの大きいゴミ袋を両手で持ち、階下へと行く。
アパートの外へと出ると、丁度コンビニから、
「今日もありがとうございました。また来てくださいね」
店員の元気な声を後ろから受けた奇麗な女性が今出るところだった。
仕事から帰って来たばかりの眠気が突然なくなり、鮮明に見える。
私はすっかりゴミのことを忘れ、その女性の方へとスタスタと歩いて挨拶をした。
「こんにちわ」
爽快な声が自然と出た。
「こんにちわ。大変そうですね」
澄んだ声の主はサラサラの髪。綺麗な顔立ち。黒の長髪で、目元にホクロが付いていた。向日葵のプリントが付いている白の半袖のピンクのジーンズ。
「え?」
「そのゴミですよ」
「え? ああ、そうですね」
私は今頃ゴミを持っていることを思い出した。
彼女はコンビニ弁当を片手に持っていた。
「B区の方?」
女性は一瞬、不安な声を発した。
「この近くに住んでいるんですよ」
私は自分の顔が火照ることが新鮮だった。ますます女性の顔が鮮明に見える。
「ええ……そうなんですか。私もです」
その女性は安堵の息を吐いたようにも見えた。
「夜鶴 公(こう)といいます」
「奈々川 晴美といいます。隣近所なんですね」
「ええ、そうですね」
この二年間で私は火曜日にゴミを捨てる時は、いつもは9時頃だった。
今日だけ8時にゴミを捨てたのだ。
そして、出会った。
「では……」
その美しい女性は長い髪を揺らして、帰って行った。
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