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私はしばらくボーっと立っていたが、ハッとした時には女性の顔を二度と忘れられなくなっていた。
ゲーセンにまどろむ頭で入ると、片隅にあるいつもやるガンシューティングゲームをした。スコアは上がったが、頭ではいつまでも……あの女性のことを考えていた。胸が苦しくもあり、頭は霞がかってもあり……。
「おい、夜鶴!」
その次の日の夜勤では、島田が私の顔を見ては茶化していた。
「お前。今恋しているだろう? 俺には解るんだよ! 誰だか教えてくれー!」
島田が好奇心旺盛な顔を向ける。
自分でも何が起きたのか解らない。
「あ、そうじゃないとは思うんだがな?」
「そんなはずは……絶っ対にない!! 俺には解る。俺が弥生と出会った時もそうだったんだぜ」
島田が肉を手早くシューターに入れながら話す。その目は真剣のようでどこか面白がっていた。
「こらー! そこ無駄口たたくなー! で、誰なんだ?」
田場さんがこちらに駆けてきた。
「あ、そうじゃないと思います」
「俺も昔はそんな頭と顔を毎日していた時もあったなー。で、誰なんだ?」
田場さんは35年も生きているのだ。
「はあ……そうなんですか?」
私はどうしたのだろう。あの日から頭と顔がまるで別人のようだ。心はあの人のことを考え、あの人の鮮明な顔が離れることはない。心を占めるのは、あの時のままだ……。
連続する同じコンビニでの彼女が頭を過る……苦しい……。
「式は何時なんだ? スリルはいいぞー」
島田の声が耳に入ると、私のまどろんだ頭にスリルというのがチクリと刺さった。
「本当だ。スリルはとてもいいぞ。俺のように奥さんのためにロケットランチャーを買わないか?」
田場さんは仕事の注意を忘れていた。
「スリル……。……奈々川……晴美さんと結婚……?」
「ははっ! 奈々川さんか! どこに住んでいるんだ? 教えてー!」
島田は喜んでいるようだが。私は心底震えそうな心境になった。
「奈々川 晴美さん? はて、どこかで聞いた時があるぞ?」
田場さんが茶化す挙動を一時停止した。
「田場さんー。俺にも教えてくれよー」
島田は珍しい豚肉をシューターへと入れた。
「奈々川 晴美。確かB区の相当な金持ちのお嬢様のようだ。前にB区のテレビで放送されていたはずで、俺も一回だけ観たんだだが。」
「ええええ!」
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