28人が本棚に入れています
本棚に追加
田場さんの声に島田がびっくりして、肉をシューターから外れたところへと放る。肉は青色の毎日清掃されている床に落ちた。
「B区のお譲さま! 無理じゃん!」
「何でも……確かフィアンセがいるんだが、それが強制的なんでA区に逃げてきたんだそうだ。相手は凄い金持ちなんだそうだが……」
私はまどろみから機能しない頭で聞いていた。ボッーとする頭の片隅で「お譲さま」という単語がぐるぐるとまわり、目の前が暗くなってきた。
「そ……そんな……?」
私は夢うつつの意識で、蛍光灯が均等にある天井を見上げ、意識が暗い沼にでも静かに落ちていきそうな錯覚を感じていた。
それを察知した島田が不敵な笑みで私の肩を何度か軽く叩きながら、
「大丈夫さ。俺がB区のフィアンセをぶっ殺してやるよ。一週間後には結婚式さ。マシンガンを持ってな」
私は心強い島田を見つめる。
「ああ。そうだといいが……」
「いやー。それが……そのフィアンセは相当な金持ちのようで毎日のようにボディガードを連れているほどなんだ。正攻法じゃ敵わんな……。よし、俺が何とかしてやるぞ。……。どこにいるんだ?」
田場さんの好戦的な顔を受けた私は島田にも向かって言った。
「近所にいた……」
津田沼も遠い場所から耳を傾けていた。
「でさー、夜っちゃん。どうするの。そのお嬢様?」
津田沼が聞いてきた。仕事中は遠くにいたのに地獄耳である。
「うーん?」
私は考える。しかし、頭に浮かぶのは奈々川さんの顔ばかり。
「あ、そうだ。一昨日の工場で倒れた奴。死んだってね」
津田沼が下を俯き静かに言った。見えにくい表情は暗い印象を受けさせるものだった。
「ああ。いい奴だったかも知れないが……。心臓発作だってさ」
そう言うと、津田沼は気を落とした顔を向けた。
そんなことよりも、私は彼女のことで頭がいっぱいだった。
「話を戻そう。死んだんなら仕方ないぜ。関係もないしな。そのお嬢様はきっと……確か近所だっけ? 好きな奴を見つけるためにやってきたんだ。と、俺は思うぜ。」
そう言うと、島田が愛妻弁当に向かって、一礼した。
「そうだといいんだが……。まあ、これからは火曜日は俺、休むから」
最初のコメントを投稿しよう!