第2章 板挟み

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「あの。ここに私がいることを他の人に話さないで下さい。お願いします」  奈々川さんはまた、笑顔を見せるがただ単の作り物だろう。  私は肩の荷が降りた。  それならば、彼女がここにいることをB区の連中には隠して、友達や恋人になるチャンスがあるのかもしれなかった……。そんな下心が頭に自然に浮かんだ。 「ええ、解りました。俺、秘密にします」 「ありがとうございます」 「それと、雨止んだみたいだ……」  いつの間にか振った雨は、いつの間にか止んでいた。  毎週の火曜日に奈々川さんに出会うのが日課になった。何とか奈々川さんをもっと知りたくて、毎日火曜は休みを取る。B区にいる奈々川さんの父親は、あの総理大臣だというのは確かに悩みの種だ。けれど、父親が暴君でも娘は違うということも歴史的にはあるはずだ。よろしい、火曜日はせっせと休んで、奈々川さんにラブアタックだ。  でも、B区の総理大臣の手下が気付いてしまったら……銃の手入れもしなくてはならないだろう。恐らくは私たちはA区に住んでいるし、匿っているとも言えるし、死人がでるほどの大問題が発生してしまうだろう。  それでも、やっぱり好きになった人と一緒にいたいものである……。  私の恋の病は悪化の一途を辿っているのだろうか……。  午前8時 「おはようーっス! 云話事町TVでーす!」  美人のアナウンサーが住宅街を背に元気な声を発した。 「はい! 藤元 伸二です! どうぞよろしく!」  神社のお祓いに使う棒を持った藤元がテレビのドアップを受ける。鼻毛が少し伸びているが、それ以外はいたって普通の人だ。 「僕の宗教に入団してくれた人は、今なら抽選で……」 「はい! そこまでです!」  藤元が言い終わる前に、美人のアナウンサーが割って入った。 「云話事町新教会が切羽詰まっているのは、解りますけど今は仕事中でしょ!」  美人のアナウンサーが眉間の皺を気にできないほど微笑む。 「だってー、入団希望者がいないどころか、僕一人しかいないんだよ」 「そんなことより、仕事っス!」 「うっす!」  明るい住宅街を背に撮影されている。二人の後ろには複数の笑い声が聞こえた。 「今も進行している大規模な都市開発って、私たちA区の人々には関係ないですよね」
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