第1章 ゴミ捨て

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 超高層ビルから高速エレベーターで降りた。これからお得意様に向かう予定だった。 エントランスで彼女の髪飾りに気が付き手を振った。  停車してある車窓から彼女はにっこりと笑って、シボレーから降りて来た。資料片手にこちらに手を振る。道路を走るスポーツカーの群はまるで何かのレースだ。 「おはよう」 「おはよう。その手の資料は何?」  彼女は小さく微笑んで、「ちょっとね」と言い。私をこのビルの真向かいのコーヒーショップへと誘う。  丁度、横断歩道があるので、信号が青になったらまっすぐに店へと行ける。  途中、一人の女性とぶつかってしまった。「あ、すいません」と女性から、一方的に謝りの声が上がった。私は、そんなことよりも、その女性のチャーミングなほくろに目が行った。女性はいそいそと横断歩道を歩き去ってしまった。  その時私は、チャーミングなほくろが脳裏に焼き付いてしまった。  このお店は、私は何度か彼女に誘われていた。 「コーヒー飲みながら話しましょ」  彼女と私の関係はどっちかというと、友達だった。彼女にはボーイフレンドが五本の指では足らないほどいるのだ。その中の私はただ単に話やすい人であった。 「昨日は御免なさいね。私おっちょこちょいで……」 「いや……いいさ。でも、そのせいで俺が上司に怒られるだけさ」  私はそう言うと、ロレックスで時間を見てみる。午前の10時だ。  彼女の仕事でのちょっとしたミスを、私がもみ消すのはこれが初めてではない。  店内に入ると、彼女が席に着いてから口を開く。 「あの、それで話したいことがあるの。ねえ、聞いてくれるでしょ」  コーヒーショップは人が疎らである。コーヒーの香りだけでもゆったりとできる空間に、彼女の醸し出す雰囲気は微妙にそぐわなくなってきた。 「また。もみ消して……今度のはちょっと大きいけど」  歯切れの悪い言い方で彼女の口から音が漏れる。  けれども、私はまたかとは思わない。  しょうがないなと思う。  私は素材のいい背広のポケットから手を引張り出し、両手を揉んだ。 「解った。いったい……どんなことをしたんだ?」  ――――   ここはB区という場所。西暦2068年の日本だ。2030年頃から少子超高齢化が急速に進み、今では65歳以上の人が総人口の52パーセントまで達し。日本国内の総人口のうち二人に一人は老人ということになった。経済力で各国とせめぎ合うことが困難になった時代。  2038年に現首相は日本の発展という希望のため日本の中央へ全国民を収集した。
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