第1章 ゴミ捨て

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 A区。B区。アルファベットで地名を表すようになってから、日本全土の区画整理でもう20年余りが経つ。アルファベットの地区は一つでも人口が約5千万人以上の巨大な地区だ。現首相は日本の急激な発展が責務となり、B区には日本の国の経済を左右するほど巨大な都市を造り、A区には、B区の周辺部には商店街や中小企業など、農村部には農業や漁などといったB区をサポートするかのような造りにした。  けれども、そのためか貧富の差からくる不満や差別が横行し、銃を持つ程の治安の悪い世界となった。    A区やB区とアルフャベットの地区をまとめて云話事町と呼ぶ人もいる。AやBというよりは、云話事町の方が解りやすくていいのだが……地区なのだが、何故町なのかというと。  理由を知っている人はいないだろう。理由はA区やB区を提唱した現首相の出生地が云話事町という場所だったからだ。    二年後……  愛車を駐車場へと止めると、いつも朝の8時だ。ピンク色のクマのキーホルダーのある鍵を茶色のチノパンから取り出し、アパートの105号室を開ける。  傘立てが占める玄関で作業靴を脱いで部屋へと入ると、冷たさがいまいちの缶ビールをキッチンの冷蔵庫から取り出し、テレビを点けた。   「お早うござます! 云話事町(いわずちょう)TVです!」  いつもの美人のアナウンサーの声を聞き、ニュース番組が始まる。  背景にはここA区という場所の街並みが見渡せる。  健やかな日差しが降っている。 「今日は晴れ。昨日の曇り空がまだ残っていますが、きっと晴れるでしょうッス! ところで、今日も云話事町A区にお住まいの云話事町新教会の教祖。藤元 伸二さんです。どうぞ!」 「はい。藤元 伸二です。誰か私と一緒に宗教しましょうよー!!」  そう叫んだ藤元は20代半ばで、後ろだけ長い黒髪をしている。前髪は均等におでこで真一文字、色白の肌にメガネを掛けた男だ。背格好は小柄に見える。安物の白いTシャツと黒のオーソドックスなズボンに白のスニーカー。  片手に神社なんかでお祓いをする棒(大弊)を持っている……。 「はい! 信者の勧誘はそこまでです!」  美人のアナウンサーが眉間の皺を気に出来ないほどに微笑む。 「だって、誰も入ってくれないだもん。僕の宗教……そんなに不気味?」  藤元は頭を垂れる。
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