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田場さんは心配な表情というより可笑しいといった顔をする。
田場さんは私と島田がA区なのを知っていて、田場さんはB区出身なのだそうだ。けれども、人柄がいいのでA区の人でも分け隔てがない。心強いA区の私たちの味方でもある。
私はロッカールームで着替えると、島田がいるであろう肉の仕分け室へと急いだ。
ベルトコンベアーは4本あって、20人くらいが間を挟んでいる。肉の仕分けなので、肉を入れるシューターがところどころにある。
肉は牛肉がメインだ。
たまに豚肉や鶏肉が流れてくる時もある。
島田の隣へと行くと。
「あいつ。ぶっ飛ばしてやろうか!」
茶髪で長身の島田が吠えている。均整のとれた顔をしているが、左の目元に青い染みがある。
「大丈夫か?」
肉が均等にベルトコンベアーを流れ、私と島田は慣れた手の動きで肉をシューターへと入れながら互いに顔を見合った。
「ああ。車も無事だ。けど、今度あいつを見かけたら……銃だな」
「ははっ」
「そりゃそうと。好きな人とか特別な人とか……見つけたら? もう結婚してもいい年齢だし」
島田が唐突に言った。その顔は確かに好奇心が滲み出ている。
私は少し考えた。確かに結婚が出来る年齢を満たしているが、かなり深刻な経済的な問題を抱えている。
「いや、今はいい」
私は金のない男だ。
「俺も結婚した時は、すぐに奥さんにも銃を持たせたぜ。お前もそうすればいいんじゃないか?そうすれば安心だし」
島田が珍しい鶏肉をシューターへと入れる。
「俺にはそんな度胸は無いよ。それに、好きな人ならサラリーマン時代にいたさ」
「なら、今からでも遅くはない! 明日の火曜日に会社へゴーだ!」
島田は片手で肉を取り、片手で遥か遠くの会社があるであろうところに指を持っていく。
「あー……やっぱりいいや。明日はゲーセンさ。恋愛よりは安全な刺激的体験をしたいのさ」
私は頭を掻いた。
「つまんない人生だって、俺は思うぞ。やっぱりスリルはあると人生楽しいぞ」
「それはそうだ。けど、なんかこう……。B区の奴らに殺されたら奥さんが可哀そうだし。仕事中だってやばい時あるだろ」
「それでも、結婚するから楽しいんじゃないか?」
田場さんが近くを通る。
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