第1章 ゴミ捨て

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「こら、私語は慎め。仕事中だろ。けど、スリルはいいな。俺も好きだぜ。奥さんには奮発してロケットランチャーを誕生日にプレゼントしたんだ。そしたら、喜んでくれて」  田場は35歳の妻帯者で、子供が三人。  がっしりしている体つきの赤いモヒカン頭だ。怒り出すとそのまま怖い顔になる顔だ。 「でしょー。田場さん。俺も子供欲しいな」  休憩時間は少し緊張してしまう。B区の奴らがほとんどだからだ。休憩所は肉の仕分け室の更に奥。食堂兼休憩所になっていて結構広い。 「あいつがいたら、俺。キレるぞ」  島田が自販機から缶コーヒーを二本買い。私に一本渡した。  よく冷えている。 「ここにはいないさ。だって、見た時あるのか? そいつ?」 「ない」  テーブルに着くと、私は早速コンビニ弁当を広げる。 「またコンビニ弁当か。お前が自炊しているとこ想像できないじゃないか」 「ああ。仕方ないさ」  私が自分が自炊をしているところを想像してみた。  あれ、にんにくなんて買ったっけ? ニンジンは買ってきたはずだが? どれくらい煮ればいいのかな? 肉が焦げた! 米がベタベタしている!」  25年間も自炊をしていない人間はこうなるのだろう。  向こうからB区の津田沼が、私たちを確認するとのこのこと歩いて来た。  私の隣に座ると、 「A区の人は大変だね。大金に縁がないけど敵には縁があって……」  B区の奴だが、小太りでメガネをかけていてなかなかいい奴だ。多少俯き加減な性格の勤勉な顔立ち。 「ああ。お前が総理大臣になればいいんじゃないのか?」  島田が愛妻弁当に一礼してから茶化す。 「なりたいんだけどねー。あ、この間の餃子まだ食べてないんだった」  津田沼のメガネがキラリと光る。 「まだなのか」  私が嘆く。不味いが独特の味だった近所のラーメンショップの餃子を、私が津田沼と島田に買ってやったのだ。結構いけるかも知れないのだ。 「あの餃子作った奴。天才じゃねぇ。不味くても食べたくなるんだからさ」  島田と私は食べていた。 「なあ津田沼。確か三年前からの大規模な都市開発って、今でもやってんの?」  島田が愛妻弁当片手に言い出した。何年か前から都市開発プロジェクトと称してB区を発展させたりしているようだ。
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