季節の変化

7/68
前へ
/100ページ
次へ
「おはよ~ユウちゃん」 「はいよ~って、美希~アタシ言わなかったけ??」 「――えっ、な、何をですか?」 「その服装なら、髪と眼鏡を……」  うん、案の定、思った展開に発展した。そんな二人の会話を他所に、もう一人のお嬢様がやんわりと母雲に対して切り出した。 「母雲ちゃん、おはようございます」  視線が合うなり、礼儀正しいお辞儀に、その珍しい灰色の髪が、さらさら、宙に流れた。 「おはようございます。彩魅ちゃん」  だからこそ、母雲も姿勢を正して、挨拶と同時にお辞儀を返す。そこで再び目が合った時、お互い小さく微笑む事が日課となっていた。  白華彩魅(しらはなあみ)は、世間有名な白華グループと呼ばれた財閥の令嬢で、ちょっと珍しい長い灰色の髪と、綺麗な宝石を思わせる紅玉の瞳を持つ。  名前の通り、日本人であるが、遺伝子的に特異体質を持っており、医学的にもそれを証明する診断書を持っている。  容姿端麗、財閥令嬢、品性高潔……まさに三拍子揃った、お嬢様だが、この彼女とほんの一ヶ月前までは、お互いの存在と命を賭けてぶつかり合ったなど、誰も思わないだろう。  お互いを認めた仲で、それはまだ一ヶ月の付き合いでも、美希にも遊香にも負けない大切な絆があると感じられる。そんな彼女の本日の服装は……  彩魅の髪色に近い、淡いグレーのニット、下はブラックのロングスカートで、胸元には十字架のペンダントが、お嬢様である雰囲気をこれでもかと全面に押し出す。  ちなみに、これも遊香がチョイスした内容。もっと、ダークなお嬢様を演出するべきだ! ってなって、いざ試着すれば……彩魅の本質がそうさせるのか、結果的に品が高いお嬢様の出来上がり。  彩魅も気に入ってくれたので、今回はこの服装で着てくれたようだ。 「それにしても……菜下さんは、お元気のようですね」 「なんとなくこのパターンは予感出来たんだけど~まさにって感じになっちゃったね」 「そうですか? 赤松さんのお洋服、素敵でお似合いなのですが、何がいけないのでしょうか?」 「んん~ユウちゃんは、その人の魅力を最大に引き出したいから、きっとユウちゃん必死なんだ」 「魅力を最大に……でしたら、お料理で言う味付けアレンジでしょうか?」 「料理で言えばそうかな……あっ、眼鏡取られた」  そんな会話の最中、遊香が強行手段に出ていた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

131人が本棚に入れています
本棚に追加