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真っ直ぐな視線に、愛菜だって考える。母雲の実力……いや、白面金毛九尾の狐が起きている時の彼女の能力。少なくとも、先に展開した神通結界を破壊して見せた。これはある意味で言えば、退魔師同等の能力。しかも、その監視である紅玉の聖女も同行するであろう。
戦力的に言えば、これ以上申し分無いが……やはり母雲を連れて行く事に抵抗がある。確かに妖魔に関わりし者だが、正式に登録された退魔師ではない。
それに、夜道怪だった場合を考えても、無傷で退魔が出来るかと問われれば、首を縦に絶対振れないのだ。
「……きら……」
「――だから言っておろうに、儂の話をしかと聞いておったのか??」
重ね言い切られるからこそ、愛菜は口を閉じて、母雲の肩を見た。
不機嫌そうに目を細める美女とは、此処まで怖い雰囲気を纏えるのか。そんな威圧感があるのだ。現に、母雲は不味いと思ってか、身体が強張っている。
それでも母雲は口にしてしまうと……引けない。
「……これは……私の我儘なんです。でも、今はどうにか動くべきだと思います」
「アホよのう。妖怪事絡んでも仕方あるまい。今現在、汝に対してどれだけ被害があった? 何もなかろう? だから、余計な事に首を突っ込むな。そんな事しておると、誠吾も困るのではないか」
「……誠吾さん……も」
言われて勢いが止まる。自身の行動が他人を巻き込み、それが自身の身にも危険が及ぶ。それこそ、何かあれば……
「そうじゃ、誠吾と逢うには、汝の身体が無ければならん。それに、汝が良かろうが、儂が認めん事はしてはならぬ」
「――で、ですが……」
俯き、再び思考する。今は動けない時ではない。動けるチャンスである。
悩む時間は無い。優柔不断になってる暇なんて――無い。
「――今此処で動けない人が、陰陽師になれるでしょうか? 私は……私も、陰陽師の卵です! クオさん! 力を貸して下さい!」
赤紫色の瞳が凛々しくなり、迷いを吹き飛ばす。こうなれば、母雲の想いが固まった証拠とも言え、クオは呆れた表情を浮かべた。
「……つくづく大馬鹿者であるわい。儂は、力を貸す気はないぞ。但し、誠吾と約束はしておるから汝の動きを見ておる」
母雲が死ねばクオも強制的に死ぬ。だからと言って、強引に引き止める材料が無ければ、こう言うしか他なかった。
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