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「……はぁ~、九尾も勝手に認めるし……なんかあれば、あたしの責任になんだけどな……もう~」
「愛菜ちゃん、何があっても愛菜ちゃんを責めない! だって……私が勝手にお願いしてるんだから」
「三神様、あなたの忠告はこの彩魅もお聞きしました。故に、万が一があったとしても、この件に関してグレイシア教会の執行者が責任を負います」
「……そんな事言われて、はい、そーですか! なんて、認めるなんて出来ないでしょう。――聖女のアンタがそこまで言うのなら、プロの退魔師が責任持って対処するわよッ!」
もう決めた。そんなやぶれかぶれの荒い声に対し、母雲は「ありがとう」と頭を下げる。そんなお礼より、現地に向かうべきだから走る事を告げると、愛菜が一気に駆け出した。
「……彩魅ちゃん、ごめんね」
「祓魔師として、妖魔が人々を困らせるならば、祓うまでです。あやまる必要はありません。――さあ、これより闇のお仕事ですので、油断はくれぐれもなさらずに」
――ダッ、と駆け出す彩魅の灰色の髪が宙を舞い、愛菜の背中を追い掛ける。それを見て、うかうかしてはならないと、身体に宿る妖気を確認する。
纏う妖気が身体を活性化させ、五感の全ても引き上げてくれるのが、今の姿。狐の耳と尻尾こそ発現させていないが、今は立派な半妖怪。迷わずに、イメージし一歩でアスファルトと蹴ると、いつもの自分ではない。
風を全身で受けて、癖髪が後方に靡く程の加速を得る。人々が学業や仕事から解放され集まるこの街中で、縫うように進む三人の少女達は、まさに疾風の如し。一瞬の光景故に、その姿を認知する人々は然程居ない。
目撃すれど、それは何かの見間違いか。と、勝手に解釈する程に移動速度が速いのだ。
駆け出す事、数分もすると、街より少し外れたビルの谷間と言えば良いのか、高層ビルが少なくなる地区の一角で、愛菜の速度が緩み出す。
道路では交通量は相変わらず、それでいて、駅からも距離があるせいか、歩道を歩く人々の数は少ない。
――と、ゾクッとした感覚が母雲を襲う。
これは……そう、引き寄せられるこの感覚も何度経験しても慣れそうにない。
「――ぁ、彩魅ちゃん、愛菜ちゃん……居る……ね」
引き吊る頬が、二人の退魔師の警戒を一層深め、周りを見渡す。
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