祓魔師と陰陽師

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「……た、多分……だって、もう足は動かないし……」 「……足? あなたケガでもしたの?? もしかして、何処かに行きたいのなら……道尋ねかな?」 「い、言え……尋ねるとかじゃないんです……」  あれ、外したかな? 今まで身体が反応して止まった先には妖怪が居る。今も、歩いた先には……それらしい人間が居た。でも、違うならば、この辺りに結界があるのかも知れない。  瞳を凝らし、周りを確認して見た。それでも、結果的に変化は無く、そこには確かに日常が流れているばかり。 「フフフッ、私が歩道橋で黄昏てたから不安に思っちゃった? そんなつもりは無いけど、疲れてたからボォーッとしてたのよ。心配掛けてしまったらごめんなさいね」  少しおかしく喋る女性を前に、愛菜が前に出ようとしたが、それより先に彩魅が声をかけた。 「いいえ、謝罪の言葉は必要と致しません。時に一つお訊ね致しますが、あなたは目が宜しいでしょうか?」 「目が? 一応視力は、良い方だけど何かしら?」 「私の髪の色は、何色にお見になりますか?」 「それは地毛? 珍しいわね。灰色に見えるけど……染めてるの?」 「確かに見えている様ですね。では、私が手にしたこの書物は、何かわかりますか?」 「随分と大きな本……辞書かしら?」 「……ありがとうございました。三神様?」  名前を呼ばれるより、手にした呪符が問答を言わず、言霊詠唱を成して、一気に神通力を練り上げて行く。周りの空気が緊張感に包まれ、母雲も息を止めてしまう中、彩魅はゆっくりと口を開く。 「この本を手元にありますが、普通の方々にはこれを感知出来ない術を展開しておりました。つまり、これが視えたあなたは、人外チカラを持つ者となります。そして、お気付きと思いますが……」  言葉を繋ぐ中、愛菜は手の印を素早く交差させてチカラを術式へと変化させる。 「『……されたし、常世の隔たりを創りださん――八衢纏陣(やちまたてんじん)』」  完成させる言霊を呪符に籠めると、有無を言わずに足元へと投げつけた。すると、時間の流れが一瞬止まったと思う程に静けさが満たさ、続いて展開された五芒星の陣形が瞬きする間に広がると、そこには、以前見た色の無い世界へと変化を遂げていたのだ。
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