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先月の20日に彼からもらった千代紙は綺麗なグラデーションの上に真っ赤な金魚が散りばめられたデザインだった。
これを彼は大事そうにハードなプラスチックケースに入れ、肌身離さずに持ち歩いていると言った。
それには深い思い入れがあるのかと訪ねたが、彼はよくわからないと残念そうにかぶりを振った。
ただ、なぜだかこれには懐かしさを感じる、と言った。
千代紙か、色か、模様か、どれだかはわからないけど、と。
いつ思い出すかわからないから持ち歩いている、と。
聞けば彼は数年前の一定期間の記憶が曖昧だそうだ。
その記憶を鮮明にする欠片なのかもしれないと直感的に感じているのかもしれない。
だから今回はどの部分に懐かしさを感じているのかを確かめようということになった。
その懐かしさの原因を知りたかったのは、小説家という職業のせいなのか違うのかはわからなかった。
ただ私も2年前、月を見ている生活をしていた頃、何故そのようなことをしていたのかの記憶が古いビニール傘のようで、ところどころに埋まらない穴がある気がしてならないのだ。
少しだけ似ている記憶を持つ彼の懐かしさの原因を知ることができれば、自分の記憶も操れるかもしれないと思った。
操ることができたら楽だと思った。
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