古いビニール傘の記憶

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「おはようございます」 「あら、おはようございます。  またお会いできて光栄です」  彼は今回もまた千代紙を入れたプラスチックケースを持っていた。  彼自身を守るように強く抱えていた。  これ以上ないほど自然な流れで何を言うでもなく二人で並んで座った。  私は紙袋の中身をテーブルの上に並べた。 「この中に、懐かしいものはあるかしら」  言うや否や、彼は一枚の写真を手に取った。  それは夕刻の空と海を写したもので、薄紫色のグラデーションが美しいものだった。  懐かしさを感じたものは色だったのか、と思い、彼を見ると左目から涙を流していた。 「この色が懐かしいのですか?」 「みさき…が…」 「みさき、さん?」 「みさきが…幸せなら…」  みさきさんというのは彼の彼女だったとかそういう人なのだろうか。  別れてもう会えなかったり、亡くなられたりした人なのだろうか。  そういったことを思わせるほど悲しい響きだった。  みさき、としか言わなくなった彼の左で、ただ流れる涙の美しさを感じていた。 .
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